高齢化、少子化、人口の一極集中化など、様々な社会問題の影響により、全国的に空き家増加が続いています。その問題に対処するために2014年に成立した法律が「空家等対策の推進に関する特別措置法」です。この特措法は空き家を主な対象にした初めて法律で、これまで建築基準法や景観法などの範囲にあった放置空き家問題などに関しての対応などが定められました。
この法律は、適切な管理が行われていない空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護するとともに、その生活環境の保全を図り、あわせて空家等の活用を促進するため、空家等に関する施策に関し、国による基本指針の策定、市町村(特別区を含む。第十条第二項を除き、以下同じ。)による空家等対策計画の作成その他の空家等に関する施策を推進するために必要な事項を定めることにより、空家等に関する施策を総合的かつ計画的に推進し、もって公共の福祉の増進と地域の振興に寄与することを目的とする。
e-GOV
しかし、特措法を施行しても空き家は増加を続け(空家増加の根本的な原因は前述のとおり根深い社会問題によるものなので当然ではありますが)、それに伴って近隣・景観・老朽化などのトラブルも増加の一途を辿っています。
そのような状況を鑑み、2023年6月14日、改正空家特措法(空家等対策の推進に関する特別措置法の一部を改正する法律案)が成立しました。
そしてこの法律は2024年の12月13日から施行されることになります。空き家を所有されている方には大変影響のあることですので、もし「ご実家が空き家になっている」、「親族の家を相続したが住んでいない」、「実家を相続したが、忙しくてしばらく放置している」などの状況に見に覚えがある場合は、ぜひこのコラムで法改正の概要だけでも掴んでいってください。
■読みたい場所にジャンプできます
改正空家特措法の主な4つの変更点
この改正空家特措法で大きく変わる点は以下の内容です。
それでは詳しく変更点を見ていきましょう。
「管理不全空き家制度」を新設
旧特措法では「特定空き家」という制度がありました。簡単に説明すると、この制度では危険な放置空き家(老朽化で倒壊の恐れがある、など)に対して、必要な手続きを経ることで自治体が強制的な対応(解体など)を行えます。
危険な空き家に対処できることに関しては一定の効果を上げることができますが、あくまですでに現在危険な状態になっている空き家が対象でした。
改正空家特措法では、「管理不全空き家」という制度が新設されました。この制度は旧法の特定空き家制度(対症療法的な対応)とは異なり、「特定空き家」になる恐れのある空き家を対象にした制度です。
特定空き家に指定されるには、「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」などの要件があり、かなり老朽化が進んだ状態(いわゆるボロボロでいますぐ倒壊しそうな状態)でないと、指定できないという問題がありました。
その点、今回の管理不全空家では適切に管理されていないと判断された空き家が対象になるので、特定空き家制度と比較して、一気に対象が広がります。
放置空き家の固定資産税の優遇を解除
管理不全空き家は、特定空き家制度と同様に、自治体から状況改善の「勧告」を受けると、固定資産税等の住宅用地特例が適用除外となり、敷地の固定資産税の優遇(課税標準額×1/6)を受けることができなくなってしまいます。
その結果として固定資産税が増加することになります。
よく空き家を放置すると税金が6倍になる、と言われているのはこのことです。ただし、建物についてはそもそも1/6に優遇されているわけではないので、優遇特例が適用除外になったとしても、特に影響はありません。
特定空き家への対応を迅速化
旧法の特定空き家制度では、命令から代執行を行うまで、相当の猶予を設ける必要がありました。そのため、激しく老朽化していて、大変危険な状態だったとしても迅速に取り壊すことはできませんでした。
その問題を解決するため、改正空家特措法では、「緊急代執行制度」が創設されました。これにより一部手続きを省略することができるようになり、迅速に危険な空き家を取り壊すことができるようになりました。
また、旧法特措法では、所有者が不明な場合に行われる略式代執行の場合、費用を徴収するためには所有者に対して裁判を起こす必要がありましたが、改正空家特措法ではその必要はなくなり、(税金を滞納した場合と同じように)強制的に徴収することができるようになりました。
空き家の利活用の促進
改正特措法では、自治体は「空き家等活用促進区域」を設定することができるようになりました。
この制度では、市区町村が区域と活動方針を定めることがで、建築基準法等で定められている接道要件や建物の用途の規制などを緩和できるようになりました。
これにより、今まで法令の制限により利活用ができずに放置されていた空き家を、有効に活用することができるようになります。
空き家所有者は改正の内容を把握してきましょう
かなりざっくりではありますが、改正特措法の変更点を解説しました。
空き家はあくまで個人の所有物ではありますが、適切に管理をしておかないと、近隣に迷惑をかけてしまったり、経済的な不利益を被ってしまう可能性があります。
今回の法改正で、老朽化して極めて危険な状態になっている空き家でなくても、自治体による介入などの可能性もありますので、今後ますます空き家の所有者としての責任が問われてくることになるかもしれません。
将来利用する予定のない空き家は、所有を続けていていけばいくほど、税金や火災保険費用の負担や管理の負担が重くのしかかってきます。
「この空き家をどうするか」という方向性はなるべく迅速に決めておくことが、将来のトラブルを避けることに繋がるでしょう。