2024年6月21日に国土交通省は「不動産業による空き家対策推進プログラム」の詳細を公開しました。
このプログラムは、全国で増加する空き家に対して、不動産のプロであり、利活用のノウハウを持っている不動産事業者が、空き家の市場流通をサポートすることを目的としたものです。
既存のルールから変更する大きな点としては、低廉な空き家(物件価格800万円以下)の売買に係る媒介報酬の上限が30万円(税込33万円)に引き上げられたことが挙げられます。
本コラムでは、手数料率の変更以外にも、様々な施策を含む本プログラムを解説します。
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「不動産業による空き家対策推進プログラム」とは
近年、日本各地で空き家の増加が社会問題となっています。この課題に対応するため、国土交通省は2024年6月、「不動産業による空き家対策推進プログラム」を発表しました。
※不動産業による空き家対策推進プログラムに関する公開資料はコチラ
このプログラムは、不動産業のノウハウを活用して空き家問題の解決を図るとともに、地域の活性化を目指す取り組みです。
不動産業者は、空き家問題解決の重要な担い手として期待されています。なぜなら、彼らは物件調査から価格査定、売買・賃貸の仲介まで、空き家の発生から流通・利活用に至るまでの幅広いプロセスをサポートできる専門知識とノウハウを持っているからです。
このプログラムは、そうした不動産業者の能力を最大限に活用し、空き家所有者の抱える課題解決や、新たな住まい方のニーズへの対応を図ることを目指しています。
しかし、特に地方部では不動産業者の数が減少しており、空き家対策の担い手不足が懸念されています。このプログラムは、そうした課題にも対応し、不動産業全体の活性化も視野に入れています。
空き家対策推進プログラムの具体的な内容
「不動産業による空き家対策推進プログラム」では、2タイプ8つの主な施策に基づいて、様々な具体的な取り組みが計画されています。ここでは、それぞれの取り組みについて詳しく見ていきましょう。
1.流通に適した空き家等の掘り起こし
市場に流通していないままでいる空家に対して、売却を含む利活用を促進する施策です。
相談体制の充実
空き家所有者が気軽に相談できる窓口を増設し、全国的なネットワークを構築します。これにより、所有者が空き家の所在地から離れていても、身近な場所で専門的なアドバイスを受けられるようになります。また、相談窓口では他の専門家への取り次ぎも含め、総合的なサポートを提供します。
専門家育成の取り組み
業界団体による研修や資格認定制度を拡充し、空き家対策に精通した宅建士等の育成を進めます。また、先進的な取り組みを行う事業者等のネットワーク化を図り、知見の共有を促進します。
地方公共団体との連携促進
市区町村が「空家等管理活用支援法人」として不動産業団体を指定しやすい環境を整備します。また、地方公共団体と不動産業者が連携して空き家利活用を進めるモデル事業を支援し、優良事例の横展開を図ります。
官民一体となった情報発信の強化
不動産業による空き家対策推進プログラム」では、官民が協力して空き家に関する情報発信を強化することが重要な施策の一つとして挙げられています。この取り組みは主に以下の2つの対象に向けて行われます:
- 空き家所有者向けの情報発信 目的:空き家の早期利活用の必要性を啓発し、適切な対応を促す 具体的な取り組み
- 空き家等への移住や利活用検討者向けの情報発信 目的:空き家等の利活用ニーズを掘り起こし、新たな住まい方やライフスタイルを提案する 具体的な取り組み
2.空家流通のビジネス化支援
空家流通のビジネス化支援は空き家が市場で活発に取引されるように対策した施策です。
【上限30万円(税込33万円)】媒介報酬規制の見直し
「不動産業による空き家対策推進プログラム」により、低廉な空き家(物件価格800万円以下)の売買に係る媒介報酬の上限が30万円(税込33万円)に引き上げられました。
この改定は、空き家の流通促進を目的としており、不動産業者が低額物件にも積極的に取り組むインセンティブを高めることが期待されています。
現行の報酬体系では、不動産売買の媒介報酬は、物件価格に応じて以下のように定められています。
- 200万円以下の部分:5.5%
- 200万円超~400万円以下の部分:4.4%
- 400万円超の部分:3.3%
例えば、500万円の物件の場合、最大で約18万円(税込)が上限となります。
見直しの内容: 今回の改定では、物件価格が800万円以下の空き家については、媒介報酬の上限が一律30万円(税込33万円)に設定されました。これは現行の計算方式による上限額を大幅に上回る金額です。
例:500万円の空き家の場合 現行:約18万円(税込)→ 30万円(税込33万円)
この変更により、特に低額の空き家物件について、不動産業者がより積極的に取り扱うことが期待されています。低額物件は、これまで通常の報酬体系では採算が取りにくく、敬遠されがちでした。しかし、上限額の引き上げにより、不動産業者が適切な報酬を得られる可能性が高まり、結果として空き家の流通促進につながることが期待されています。
ただし、これはあくまで上限の引き上げであり、実際の報酬額は依頼者との合意に基づいて決定されます。また、この新しい上限は、空き家対策を目的とした特例措置であり、すべての不動産取引に適用されるわけではありません。
空き家管理サービスのガイドライン策定
不動産業者が空き家管理サービスを提供する際の標準的なルールを定めたガイドラインを策定します。これにより、所有者は安心して管理サービスを利用できるようになり、適切な空き家管理が促進されます。
コンサルティング業務の促進
空き家の活用等に関するコンサルティングサービスの認知度向上を図ります。
また、このサービスに対する報酬が媒介報酬規制の対象外であることを明確化し、不動産業者が提供するサービスの幅を広げます。さらに、コンサルティングサービスを提供可能な専門家の検索サイトや、業務を支援する事例サイト、協議体の立ち上げなども計画されています。
不動産DXによる業務効率化
IT重要事項説明(IT重説)や書面の電子化を推進し、業務の省力化を図ります。これにより、不動産業者は遠隔地からのテレワークなども活用しやすくなり、業務の柔軟性が高まります。
また、不動産取引に伴う各種手続きのワンストップ化を目指します。例えば、引っ越しに伴う契約や行政手続きを一度の情報入力で完了できるようにすることで、業務効率の大幅な向上が期待できます。
予想される不動産業による空き家対策推進プログラムの効果
「不動産業による空き家対策推進プログラム」は、単に空き家問題の解決だけでなく、様々な面での効果をもたらすことが期待されています。期待される効果をいくつか挙げていきます。
空き家の有効活用と地域活性化
このプログラムの「所有者サポートの強化」施策がうまく機能すれば、多くの空き家が適切に管理され、流通市場に乗る可能性が高まります。
相談体制の充実や空き家管理サービスのガイドライン策定により、所有者は空き家の活用方法について適切なアドバイスを受けられるようになるかもしれません。その結果、賃貸や売却、リノベーションなどを通じて、これまで眠っていた空き家資産が有効活用される機会が増えるかもしれません。
不動産業界の新たな展開
「空き家流通のビジネス化支援」施策、特に媒介報酬規制の見直しやコンサルティング業務の促進は、不動産業者にとって新たなビジネスチャンスをもたらす可能性があります。
空き家管理や活用コンサルティングなど、従来の不動産仲介以外の業務領域が広がることで、不動産業界全体の活性化につながるかもしれません。特に地方部では、空き家対策が新たな収益源となり、地域の不動産業者の経営基盤強化に寄与する可能性があります。
多様な住まい方・働き方の実現
「不動産DXによる業務効率化」施策がうまく効果を発揮すれば、遠隔地からの物件管理や取引を可能にし、多様化する住まい方・働き方のニーズに応える可能性があります。
テレワークの普及に伴う地方移住や二拠点居住、シェアハウスやコレクティブハウスなど、新しいライフスタイルの選択肢が広がるかもしれません。これにより、人々のライフスタイルの多様化や地方創生にも貢献できる可能性があります。
持続可能な都市・地域づくりへの貢献
「所有者サポートの強化」と「不動産業者の育成と活動支援」施策を通じて、空き家の適切な管理と活用が促進されれば、既存の住宅ストックを有効利用することにつながり、サステナブルな都市・地域づくりにも寄与する可能性があります。新規建設を抑制し、既存建物を活用することで、環境負荷の低減にも貢献できるかもしれません。
【まとめ】国交省が発表した「不動産業による空き家対策推進プログラム」を解説!
本コラムでは不動産業による空き家対策推進プログラムについて解説しました。
国土交通省が発表した「不動産業による空き家対策推進プログラム」は、不動産業者の専門知識を活用して空き家問題の解決を図る取り組みです。
主な施策として、低廉な空き家の媒介報酬上限の引き上げ、相談体制の充実、専門家育成、地方公共団体との連携強化などが含まれています。
また、空き家管理サービスのガイドライン策定やDXによる業務効率化も計画されており、空き家の有効活用と地域活性化、不動産業界の新たな展開、多様な住まい方の実現が期待されています。